とりめも

東京のおいしいインドカレーの店を教えて

夜行バスで酔っ払いに叩かれて泣かされた話

夜行バスで知らん爺さんとトラブルがあった話(前に一度公開して、なんとなく下書き保存に戻してたのを、改めて出しました)

前書き

一昨年の2月くらいのこと。春から京都から関東に大学院進学することを決めていた私は、関東で物件を決めて、京都へ帰る夜行バスで車内トラブルに遭った。そのときの話。

 

何があったか

どこででも寝れる私は飛行機でも電車でも爆睡する。夜行バスとて例外ではなく、気持ちよく爆睡していた。

 

その日は、バス後方の広めの位置、女性専用ゾーン(前の方は男女混合)を確保していた。無精ゆえに予約手続きするのが遅くて少し値段が張るその位置しか空いていなかったのだが、「快適だからいいや」となんも考えず予約した。後ろの席は落ち着くし、申し分ない。むしろ満足。しかも、三列シートの右端が私の席で、真ん中の席は空席だ。広々。無駄遣いではなかったなあ、なんて、しみじみ。

 

それは突然訪れた。

 

どこでも寝れるのび太のような体質なので、夜行バスでも気持ちよく寝ていたはず、だった。

 

しかし、なんだか意識がはっきりしてきた。変だ。時計を確認すると午前3時。目的地なわけがない。パーキングエリアに到着したわけでもなく、バスはブロロンと走り続けている。

 

キョロキョロしていると、だんだん、暗闇に目が慣れてきた。すると、なんだか左手に不思議なものが浮かんでいる。

 

サルだ。サルがいる。

 

いや、そんなはずはない。バスの中だ。じゃあ、なんだこれは。

 

顔を隠していたコートを深く被り直し、隙間から覗く。

 

その間もサルにコートの左肩を叩かれてる。

 

あっ、平穏が崩れる。よく不審者や危うい人に絡まれるのだが、その度に頭の中でサイレンが響きわたる。そして、今がそれ。あー、かったるいぞ。

 

そんで、サルじゃなくて、人だろうけどさ、わけがわからない。執拗に肩を叩かれ揺さぶられている。あと、左肩に妙な温もりを感じて、それはもう不快。

 

静まり返った一見平穏な車内だが、私は緊急事態。人そもそも、安心安全な女性専用ゾーンだぞここは。いや、サルは許されるのか。

 

かれこれ、10分20分はサルに叩かれ続けた。痛くはないのだが、なんなんだ。とにかく、よくわからない。

 

わけがわからなくて、悲しくて、こっそりすすり泣いてしまった。泣いてもどうしようもないが、やりきれない。泣きたい夜だ。

 

つい数時間前までは入学する予定の大学院の集まりに顔を出して、なんだかキラキラしていた私だった。無事に進学先も家も決まって、順風満帆だった。しかし、今は闇の中で知らんサルに叩かれている。物件を決めて、春からキラキラした新生活が始まるはずなのに、やめてよ。

 

ズビズバ鼻水垂らしていると、突然、車内が明るくなった。緊急停止だ。カーテンを指でめくると、パーキングエリアに到着したようだ。でも、予定の時間とは違うみたい。誰も降りないし。

 

コートの下から恐る恐る覗くと、ガタイのいい係員のおじさんが近づいてくる。何を言ってるのか聞き取れないが、私の隣のサルに怒鳴りつけている。

 

なんだなんだと思っていると、近くの女性客がヒス気味に何かを訴えている。1人が声をあげると、他の乗客も「うるせえ」「ふざけんな」と次々と苦情を訴える。舌打ちを響かせる。聞こえるようにため息を漏らす。

 

関係ないけど、公共の場で1人が文句言うと他の不満を持っていた人もあとからあとから続く瞬間は、なんだか嫌だなあ。

 

覗き見盗み聞きしてようやく理解した。

 

サルじゃなくて酔っ払いの爺さんであることを。

酔っ払いは隣の空席と私の席の間の通路にすっぽり収まっていたことを(だから超近い)。

酔っ払い自身もよくわかっていないことを。

他の客から苦情が何件か出たらしいことを。

 

つまり、他の乗客から苦情が出るほど酔っ払い爺さんは車内を徘徊しまくってたらしい。そして、あちこちから文句を言われた爺さんは、爆睡してる私の横の空席に落ち着いたようだ。

 

小柄で薄汚れたウィンドブレーカーの爺さんだ。爺さんの本来の座席には、ワンカップが置いてある。察するところは多いが、「酔っ払い」とだけ書いておこう。

 

よく、夜中の地震があっても起きずに後から母親のメールで知らされることがあるが、寝つきが良すぎるのも考えものだ。

 

その後

へー、なるほど……。とボンヤリしていると、苦情をいれた乗客が「あそこのお姉さんだって泣いてますよ!」と私の方を示した。

 

乗客の視線が集まる。

 

やめてくれ。余計泣きたい。

 

係員「どうしましたか⁉︎なにかされましたか!」

私「いや、叩かれたけど、もうなんなんだかよくわかんなくて怖いです。」

 

しどろもどろに、なんなんだかよくわかんない旨を伝えた。それしか、伝えようがない。別に爺さんにレイプをされたわけではないし。冷静に考えると、バシバシ叩かれて起こされただけなのだ。

 

すると、

 

係員「どうします?ここでこの人(爺さん)降ろして警察呼びますか?」

 

そんな選択肢あるのね。

 

今、私には爺さんを知らないパーキングエリアに置き去りにする権利が与えられている。

 

みなさんならどうしますか?

 

なんて、道徳の教材にできそう。

 

正直ちょっと迷った。報復してやりたい気持ちもある。

でも、警察を呼ぶとなると私も事情を聴かれそうだし、爺さんと夜を明かさなきゃならないかもしれない。それは嫌だな。

 

それに、どうでもいいから早く帰って寝直したかった。京都に、帰りたいよ〜〜。

 

あと、他の客が露骨にイライラしている。私と係員が会話している間もため息や舌打ちが聞こえてくるのだ。いや、そこは黙っててよ。

 

まあ、夜行バスに乗る人にはビジネスマンもいるだろうし、バスが遅れたら一大事なんだろう。誰もがこんな酔っ払い爺さんに時間を取られている場合じゃないんだろうな。わかるけど、わかるけどさ、世知辛くない!?

 

腑に落ちないが、爺さんを警察に突き出しても誰も得しないのは確かだ。そこで時間を食うと他の客にも被害が出そうだし、酔っ払いのせいで損するのは私だけでいい。それに、「早くしろよ」って圧力を感じる。乗客全体の幸福度を考え、ズビズビと汁を流しながら「そのまま発進してください」と告げた。

 

すると。係員が「何かあったら、呼び出しボタン押してくださいね」と案内してくれた。路面バスの「ここで降りますよー」って知らせるボタンなのだが、そんな使い方あったのか。ていうか、乗車時に教えてくれ、その便利ツール。

 

数時間後、無事に京都に着くと、顔の赤い爺さんはご機嫌そうにヒョコヒョコ歩いてた。他の乗客は何事もなかったかのようにスタスタ歩いていた。

目の赤い私は駅に向かう群衆の最後尾をトボトボ歩いていた。

目の前の全員の背中が、蹴りたい背中に思えてならなかった。