とりめも

東京のおいしいインドカレーの店を教えて

「検閲」と口を滑らせて怒鳴られた話

長い前置き(飛ばしてもいい)

人間、絶対ダメだってときこそ、頭が回らなくてやらかしてしまう。そんな思い出の話。(長いから飛ばしても問題ないです。)

 

3年前、私は初々しい教育実習生であった。

 

私の実習はまるで順調ではなかった。40半ばで男性の指導教諭のパワハラまがいの熱血的な指導が本当にしんどかった。

 

教育実習には一応勤務時間が定められている。例えば8:20-16:20(休憩時間含む)のような感じで決まっており、ガイダンスで手渡されたマニュアルにも記載されていた。しかも、「原則居残りすんな(要約)」といったことも明記されていた。

 

だが、私の指導教諭は「それは原則でしょう。」とマニュアルを完全無視し、指導教諭が出張の日以外は、連日、夜8時や10時まで居残ることが常となっていた。別に、私が実習の課題をサボったわけではない。夜10時をまわる職員室は、いつも決まった先生がいて、仕事というよりは雑談と生徒の悪口に勤しんでいた。朝の8時から学校にいるのに、なんで帰らないんだろう。

 

あ、加えて、実習のない土日のどちらかは毎週学校に呼ばれてたのもあった。たしか、実習日以外の時間に通勤するのは原則ダメなはずだけど、あくまでも原則だったのかな。

 

指導教諭は「私の実習生は毎年遅くまで残らせるんだよ」とかなんとか言っていたので、意図がある指導らしい。他の実習生は17時には帰る子も多いのに、いつも自分だけやる事もないのに長々と居残りをしていた。

 

さすがに連日残ると、他の先生が心配をしていたみたいだが、心配をしてくれるだけなので、事態はまるで変わらなかった。まあ、みんな忙しいし、3週間でいなくなる実習生のことだし、仕方がない。

 

勤務時間に関しては、誰もいない実習生室で時々サボりながらやり過ごせば良いのでまだマシだった。

 

もう一つ、難点があった。

 

指導教諭が私の内面にかなり踏み込んでくるのだ。たしかに、私の悪い癖として、他人と距離を置いて無難に過ごそうとする傾向はある。指導教諭的にはそれが気に入らないようで、「僕のきつい指導に反抗せず、『はい、はい』と真面目そうに返事してるのはおかしい」と不満気だった。真面目な振る舞いで怒られたのは初めてだった。

 

言いたいことはわかる。でも、こちらの立場を考えて欲しい。教育実習の単位を取りこぼすと、4年間地道に目指した教員免許状がもらえなくなるのだ。そりゃ、なるべく、真面目に振る舞うだろ……!あと、大学からもそんな感じに指導をされて、送り込まれている。

 

もう一つ別の理由もある。指導教諭が、その地域で中学教員の私の父親と元同僚だったのだ。昔、勤務校が同じだったという。教員は転勤が多いので、その分、知り合いの先生が多い。そのため、実習の時は、学年の先生の半分が父の知り合いで怖かった。

 

しかも、父親と表記したが、うちは両親の離婚により母子家庭だ。故に、正確には「元父親」となる。なんかもう、下手につつかれると、私の受け答え次第で相手方が気まずくなるし、更に厄介なのだ。

 

というわけで、父親と知り合いの指導教諭に基本的には余計なことを話したくないのだ。受け答えに困るから。

 

あと、経験上、教員のウワサは出回りが早い。なんか目立つ行動をしたら、すぐに飲み会で別の先生に伝わるし、我が家の場合、家庭訪問等で耳にしたこともある。元担任が、脱サラして居酒屋を開いていたとか聞いたなあ。

 

それもあり、極力学校にだけは迷惑をかけないように無難に過ごす癖が付いていた。

 

中学の時に相手の父親に内緒で、同じクラスのこれまた教員の息子と付き合っていたことがある。男の子の方は、家では黙っているつもりだったようだ。だが、知らないうちにクラスの副担任が彼氏のお父さんに伝えていて、バレてしまった。互いの父親が先生じゃなければ、こんなことにならなかったのになあ、という思い出だ。

 

そんなこともあり、教員には「余計な事を言わない」という習慣が身についていた。そこで、3週間の実習なのに「本音を話せ!」と、父の知り合いに連日熱く問い詰められても、なかなか心を開くことができなかった。それに、父の知り合いじゃなくとも、実習生が指導教諭に本音でぶつかるのが作法なのかも未だにわからない。

 

終いには、「あなたの悪いところをルーズリーフにいっぱい書きなさい」という、今だと問題になりそうな課題をやらされた。なんの指導上の目的があったのかさっぱりわからない。自信家ではないが、自分の悪口を書くのはいい気分ではなかった。

 

やっと本題

此処までは前置き。

 

ある日、タイトルの通り怒鳴られた。それは、実習最終日の前日だった。

 

その日は頭が回ってなかった。研究授業があるからと、前の日は24時まで学校に居残りさせられた。指導案の枠線だとか、前日の時点ではどうでもいいような細かい体裁(そもそも定めはない)を、指導教諭がひたすら拘って直すのを、何時間も見せられていた。その間、ワードよりいかに一太郎が優れているかをプレゼンされたがろくに覚えていない。24時まで学校に残ると、SECOMから学校に電話が来ることも初めて知った。

 

そして、当日。研究授業をそこそこに終え、職員室で指導教諭と授業の反省会が開かれていた。

 

その中で指導教諭が「明日、最終日に職員室で何を話すか考えた?」と聞いてきたので、「実習は楽しいわけではありませんでしたと話そうと思います」と答えた。

 

すると、指導教諭が慌てて「何を話すのか教えて」と詰め寄ってきた。これは、不穏なことを言った私が悪い。

 

「楽しいことばかりじゃなくて、居残りとかはしんどかったのが正直な感想で、それほど教育現場が甘いものじゃないとわかった みたいなことを話します」と私が答えると、指導教諭は納得がいったようだった。

 

そのあとに私は要らんことを言った。

 

「内容とか思想でまずいことあれば検閲とかお願いできますか」

 

一瞬の間があり、

 

指導教諭は「検閲なんて、そんなことしたっけ、酷いなあ」とケラケラ笑っていて、近くの女性の先生も笑っていた。実に和やかだった。何はともあれ、実習のゴールが見えてきているので、それまで出さなかった本音寄りの言葉で話せていた。冗談めいた掛け合いを仕掛けてくる指導教諭も満足そうだ。外は、晴れやかだった。

 

すると、

「ふざけんな!!!検閲とはなんて事を言うんだ!!」」

と怒号が響き渡った。別のデスクの先生がものすごい剣幕で睨みつけている。野球部の先生だ。

 

一同「えっ、まずいやつじゃん」って空気になる。それまでケラケラ笑ってた他の先生たちも大真面目な顔をしてる。主義主張はないのか?頼む、今だけは持ってくれ。

 

私は、愚かなので、この時点でなんで怒られているのかわからなかった。だって、実習直前の法律学の講義で教授が「検閲って言葉自体には悪い意味はなくて、不適切かどうかを選ぶものなんだよ」と言っていたから。講義中に電子辞書で調べた「検閲」も教授の言うとおりだった。でも、「あ〜、面倒なことになるぞ」ってのはわかったが、どうすればいいかわからなかった。実際、ウケてたし……。

 

混乱の末やっとひねり出した言葉が

 

「だって、そのとおりじゃないですか」

 

だった。今ならわかる。確かにそうだけど、それはやめとけ。口に出した直後も「やばいな」って感覚はあった。案の定、別デスクの先生は余計顔を真っ赤にして怒り出した。

 

「教えて貰ったんだろ!お前が捻くれて学校には合わないから思想を変えさせるのは当然だろ!ずっと聞いてたけど、お前なんか不快だ!」

 

……理由はともあれ、不快にさせたなら私が悪いかも。それは、混乱と徹夜明けの疲労の中でも、判断できた。「捻くれて」云々は、個人的感情から発生した、単なる悪口の気もするが。

 

「(不快にさせて)それはすみませんでした」と謝ると、

 

「俺にじゃないだろ!!」と余計怒鳴られた。

 

そんなことある????

 

隣を一瞥すると、さっきまで悪ノリしててゲラゲラ笑ってた指導教諭が神妙そうな顔をしている。

 

同じように「すみませんでした」と謝ると、「いや、いいんですよ」と指導教諭。そりゃ、そうだよなあー。とにかく、別デスクの先生以外、半笑いで困った顔をしている空間だった。あれほどの気まずい空間ってそうそうないと思う。

 

心を開いて本音で話したら、タイミングと言葉が悪くて第三者に怒鳴られた話だ。

 

指導教諭に謝罪した時点で17時を回っていた。そのあとすぐ、混乱を引きずりながら、わけがわからなくて、「では、お先に失礼します」とその場から立ち去った。この日は、初めて1番に退勤した。学校をぐるりと囲む田んぼ沿いの道を歩く生徒を無視して、家まで走った。ドタバタと玄関で靴を捨て、居間の本棚の国語辞典を取り出した。「やっぱり検閲の意味、間違いではないじゃねえか」と確認するために。

 

家に帰って辞書を確認してから、はっと我に返った。やっと、「これ、帰っちゃったらダメなやつでは……。」と青ざめた。どう考えても、一度実習生室に戻って、赤く目を腫らした顔で再訪すべきだ。そして、しんみりと、どれだけ反省したか、悪気はなかったことなどを伝えなくてはならない。でも、帰っちゃったか〜〜……!その日の夕飯に用意されたカツ丼は、翌日登校したくなさすぎて、食感しかわからなかった。

 

おわりに

 

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ちなみに、goo国語辞典だと、

 

1 調べあらためること。

「二十句の佳什を得るために千句以上を―せざるべからず」〈子規・墨汁一滴〉

2 公権力が書籍・新聞・雑誌・映画・放送や信書などの表現内容を強制的に調べること。日本国憲法では禁止されている。
精神分析の用語。無意識の層の中にある非道徳的で危険な願望を、超自我が抑圧・変形すること。

 

とある。

今考えるに、私と法律学の先生は1の用法を使い、職員室の先生は2の用法を使っていた、ただそれだけの話なのだ。どっちも間違ってはいない。

 

この話、悶々と3年間、「私はたしかに不快にはさせたけど、言葉の使い方は間違ってはないし、事故じゃん……。職員室でスマホの辞書を見せて詰め寄ればスッキリするしよかったじゃん」と後悔している。

 

周りの人の何人かに話してみると、「お前(千鳥)が悪い」「学校の先生がキッツい」と半々くらいに意見が割れた。第三者的にも判断が分かれる価値の争いなのかもしれない。

 

関係ないが、私の大好きな「赤毛のアン」のアンに言わせれば、登場人物全員が「想像力が足りない人間」だったから起きた事故なのかなーとも思う。まあ、アンが言うなら納得してもいい。