とりめも

東京のおいしいインドカレーの店を教えて

塾長と私たちの攻防

私が以前アルバイトとして働いていた塾は個人経営の塾であった。塾は50歳近い塾長が好き勝手運営しており、まるで城のようであった。一般的な労働基準の概念などそこには存在せず、持ち込んで適用させようとする者もいない。城主・塾長に嫌われると、怒鳴られたり、干されてシフトを減らされたりする実害が出てくる。

 

故に従業員は城主に逆らうことなどせず、適当にやり過ごす術を身につけていくのであった。

 

私ものちに適当にやり過ごす術を身につけるのであるが、バイトを始めて数ヶ月の時点では全くその環境に慣れていなかった。今考えると破茶滅茶なので、幾つか書き連ねていこうと思う。

 

また、これによってバイト先を訴える目的もないし、今更、恨みもないです。こういうことがあったよ、って話です。仕事自体はわりと好きでした。そこだけは付け加えさせていただきます。

 

模様替え

塾長はやや潔癖症で神経質であり、事務室の内装に苛立つことが多かった。なので、1年の間に頻繁に模様替えをしないと気が済まないようであった。

この模様替え、塾長が勝手にやってくれるのならいいのだが、若い学生バイトが多い時を狙う。

勤務終了後、授業が終わったからそのまま帰宅とはいかず、毎回1時間ほどかけて掃除をやらされていた。塾講師の仕事は授業なので、この時間は無給となる。本来は、別途、給料が出るはずだ。普通の学習塾ならね。

しかし、うちはそんなもんは出ない。無給だ。だが、この掃除は「仕事」として行われる。故に、たくさんある工程の幾つかを忘れてしまうと次のシフトの時にドチャクソ怒られる。「仕事」だから。つまり、「仕事じゃないけど仕事」という一見成立しなさそうな論理がこの城では通用するのだ。

 この掃除自体も色々グレーな気がするのだが、キリがないので今回はこれ以上言及しない。

教材がミッチリ入った棚や、面談用の馬鹿でかい机、形だけプライバシーを守ってる感を出すパーテーション、スタッフ用の掲示板、どれもでかいものばかりだ。これらを塾長1人で動かすのはしんどいので、学生を活用する。

清掃業務が終盤に近づいたタイミング「この机をね、こっちへ動かしてくれない?」なんて御用命を賜れば、我ら学生は「運が悪かった」と思うものの、「はいorイエス」しか選択肢がないことを知っている。

一度だけ、この大掃除で報酬が出たことがあった。塾長が私たちに家具の移動をやらせている間にヒョコヒョコと外出していたのだ。渡されたのは、金一封?そんなことはない。3本入りの団子のうちの1本だった。団子。その場での主従関係を理解している私たちは「うめえうめえ」と感謝を前面に出し、学生らしく元気いっぱいに頬張る。

この模様替えに関しては、我々学生の敗北である。突然行われるため、対策のしようがないのだ。

 

年末大掃除・月一の会議

私たち学生にも対策ができるものがあった。日程があらかじめ決められている年末の大掃除と月一の会議である。

これらは当然業務とは別に行われる。大掃除はだいたい12/30、月一の会議は土曜日。

月一の会議は一度だけ出たことがある。会議もいっても、自分が教えている中での成果とダメなところを発表して、塾長にコメントをされるだけだ。

会議に出たら塾長が食事を奢ってくれるしきたりがあった。しかし、ここでも油断はできない。塾長は若者をオモチャにして遊びたいので、食べきれない量をわざと注文するのだ。食べ放題の焼肉屋で、しこたま肉を頼んだ後に、ライス投入、そして、アイスを1人3個くらい行き渡るように注文する。サイゼリヤで炎上するユーチューバーはこういうところにいるんだ。

地獄だ。今時のバカな大学生でもやらん。

私は人の2倍くらい食事をする方だがしんどい。「少食なんです」と嘘をついても皿にはどんどん肉が載せられる。

目の前の席の女の子が引きつった顔をしていた。小柄な彼女がそんなに食べきれるわけがないのだ。結果、彼女の分までアイスを食べ、体調を崩し、散々だった。

この会があってから月一の会議は、欠席するか食事だけ欠席するようにしていた。他の学生も似たようなことをしていたので、自然と月一の会議自体が消え去った。

我々の勝ちだ。

また、年末の大掃除は毎年行われた。他の学生は頑張って参加していたようだが、私は帰省していることにして勤務していた3年間全て欠席したので、個人的には勝ちだと思う。ただ、自宅が塾のあるマンションと同じだったため、人に会う確率が高い。そのため、毎年、せっかくの年末に引きこもる羽目になったので、負けかもしれない。

 

シフトがないから休んだら怒られた

シフトがないから休んだら怒られた。そのまんまである。出勤するとその日授業する生徒が変わっていて、結果、授業がもたついたので、「どうして事前に確認しに来ないんだ」と大声で怒鳴られた。

怒鳴られても、悪いことをしていないし、むしろ勝手に担当生徒を変える方にも落ち度があるし……。とも言えず、黙っていると、「反省文を書き、授業の指導法を新たに考え、数日後にもってこい」と指示された。

詰め寄られると「私が悪かったのかな……」と弱気になったのだが、反省文を書く段階でその考えは払拭された。本当に書くことがないのだ。

授業の方法はいくつか悪かったかもな、と、箇条書きで捻り出した。あと、末尾に「シフトがない時に確認に行かなくてすみません」と書き加えておいた。

あとは、新しい指導法を考えなくてはならない。この塾、人員不足なので10人くらいの少人数のクラスを私が1コマの中で2クラス同時に見なくてはならない。指導法なんてものはなく「いかに効率よくやるか」なのだ。片方のクラスでプリントを解かせている間、もう片方のクラスで解説をする、というのを交互に繰り返す。

そんな中だと、塾長がやらせたがっている量のプリントを子どもたちは終えられない。

じゃあ、いっそ元案をケチョンケチョンに貶して、塾長を怒らせよう。そうすれば、強制的にクビにされて、お互いに幸せかもしれない……。これまで、辞めていた人は物凄く長期にわたり揉めていたが、それもパスできる。

名案だ。名案すぎる。

そんなわけで、塾長の前で既存の指導法をメチャクチャに批判した。一通りの説明が済み、「怒られるぞ」と膝の上の握りこぶしに力を入れた瞬間、

「よくやった。その通りだ」

褒められてしまった……。なんでこんな時に褒めるんだよ。ついでに、煽てられて季節は12月なのに入試を控えた高校生の授業を飛び込みで持たされるハメになった。後々別の先生に聞くと、「受験生の中に辞めそうな生徒がいるので、若い学生が担当すれば、辞めないかも」みたいな打算にまみれた動機があったらしい。

 

結果

完敗である。

勝ったと思った部分もあったが、完全に負けていた。

結局、3年間ダラダラと勤務した。

この理由も、冬休みに帰省している間に他の学生が全員バイトを辞めていたからだ。仲間内でも完敗だ。人手がなさすぎて、辞めるわけにもいかなさそうだったし、バイト先とマンションが同じだからカドが立ちまくる。

いま考えると、他にも、消防士のように突然電話で呼び出されるとか提出物があってバイト先に立ち寄ったら3時間事務作業をやらされた など、たくさんの不条理がある。他のバイトの人もわりとこういうことがあったみたいだし、バイトってすごい。

 

あと、塾をやめるときに送別会をしてもらい、「君は見かけはまあまあ許せるとしても、性格がメチャクチャだからね、恋ができないよ」なんて塾長に告げられた。塾長は性格は破綻しているが妻はいる。なんも言えねえ。思いがけずここでも敗北を喫した。

 

http://chidorimemo.hatenablog.com/entry/2017/11/06/151500

 

最後に、以前、塾が潰れたかもしれないと言及した。あれはウソだった。調べなおすと、支店を増やしてメチャクチャ繁盛していた。そのゴキブリのような生命力、一周回って嫌いじゃない。塾長が死ぬまで頑張ってほしい。

 

あと、学生さんは無理しないでこんな感じじゃないとこでバイトしてね。

 

追記(2018.08.01)

潰れました 。よかった。